ショーケースの冷気が白く立ちのぼる閉店間際。
値札が外れたケーキが静かに台車へ移り、ラップのかかる音だけが響きます。
食べられるのに、食べられない――それが「食品ロス」です。
年間食品ロスの規模
日本では年間約464万トンの食品が、まだ食べられるのに捨てられています。家庭233万トン、事業231万トンです。実は発生源は拮抗しており、対策は両輪で進める必要があります。
規模のイメージ換算
直感で把握するために換算します。東京ドーム約3.7杯、2トン収集車で約232万台、人の1年分では約1.22億人相当になります。数字の重みが見えると、優先順位もはっきりします。
なぜ食品ロスは放置できないの?
家計・物価への負担(インフレの加速)
廃棄までの生産・輸送・保管・販売・処理コストは最終価格に反映されます。家庭のロスは無駄な出費になり、自治体の処理費も税や料金で跳ね返ります。見えない負担が静かに積み上がります。
買いすぎを止める具体策は、買い物前の在庫チェック→作り切る設計が最短です。手順は 『家庭でできるゴミ削減5カ条』 を参考に。
環境への負荷
作る・運ぶ・冷やす・調理・捨てる各段階で温室効果ガスとエネルギーを消費します。水と土地の浪費、生態系への影響も無視できません。使わないなら、最初から作らないのが最善です。
プラスチックや包装ごみの出口を増やすだけでなく、“そもそも出さない”視点も重要。日本のリサイクルの実像は 『日本のリサイクルの現状(光と影)』 で整理しています。
貧困・食の不安定化
大量廃棄が続く一方で、食料支援の需要は増えています。価格上昇時の打撃は低所得層ほど大きく、栄養の偏りも招きます。供給が揺らぐ品目ほど、廃棄の常態化は大きなリスクになります。
季節イベントで「どれだけ・何が」捨てられがちか
イベント別の状況を可視化します。全国確定値があるものは数値、未整備のものは注記のみを記載します。
イベント | 全国推計ロス量(t) | 2t収集車(台) | 人の1年分(千人) | 備考/根拠 |
---|---|---|---|---|
恵方巻 | 約640t (約512〜768t) |
約320台 (約256〜384台) |
約16.8千人 (約13.5〜20.2千人) |
売れ残り推計256万本×1本250gの概算。 |
クリスマス(ケーキ等) | 約79t (約34〜152t) |
約40台 (約17〜76台) |
約2.1千人 (約0.9〜4.0千人) |
134店舗の観測個数×平均重量・ロス率の仮定。 |
正月(おせち・会食) | 約79t (約32〜190t) |
約40台 (約16〜95台) |
約2.1千人 (約0.8〜5.0千人) |
市場規模×平均価格→販売数量×低ロス率の仮定。 |
バレンタイン(チョコ) | 約50t (約25〜100t) |
約25台 (約13〜50台) |
約1.3千人 (約0.7〜2.6千人) |
市場規模→販売重量×低ロス率の仮定。 |
ハロウィン(菓子等) | — | — | — | 長期保存・値引き等で即時廃棄は小さめ。全国推計は見送り。 |
注:2t収集車は「トン数÷2」で概算、人年は「トン×1000÷38kg」で概算しています。中心値とレンジは、先に共有した根拠データと仮定(平均重量・ロス率)に基づきます。
注1:目安換算は〈食品ロス1t ≒ 1m³〉、東京ドーム容積=約1,240,000m³、2t収集車=満載2t、人の1年分=約38kgで計算しています。
注2:クリスマスは「売れ残り観測個数」と「救出実績」を別次元として扱い、表は観測個数ベース(中央仮定)です。救出1.6tは“最低この規模は発生・顕在化している”指標として本文で補足します。
注3:正月・バレンタインは“救出・流通上の実数”から重量を仮定換算したレンジであり、全国の総ロス量ではありません。
食品ロスはどこで発生している?
家庭:年間約233万トン
家庭での食品ロスは年間約233万トンです。見落としがちですが、買いすぎ・作りすぎ・保存ミスが静かに積み上がります。「開封日メモ+見える化+献立買い」が欠けると、期限切れと重複購入が連鎖します。
家庭の食品ロスはReduce(発生抑制)が要。日々の回し方は 『3R→5R→18R 実践フレーム』 にまとめました。
事業(外食・小売・製造等):年間約231万トン
事業由来の食品ロスは年間約231万トンです。数字は家庭と同規模ですが、中身は別物です。欠品回避の安全発注や規格・表示の制約、返品慣行が重なり、閉店前の値引き後も在庫が残りやすくなります。
食品ロスが発生するメカニズム
欠品リスクと過剰在庫
一見安全策に見える“多めの在庫”が落とし穴です。需要の揺れに合わせて厚くすると、賞味・消費期限の壁に早く達します。回転の速い日配や総菜は、わずかな読み違いでも廃棄が跳ね上がります。
季節商品の読み違い
天候・曜日・地域行事・SNSの話題で需要は大きく変動します。「昨年並み」が通用しないのが常です。予約比率や当日製造の微調整が遅れると、売れ残りが一気に積み上がります。
規格・期限・現場の限界
見栄え基準や均一サイズ、短めの表示期限に、繁忙時の人手不足が重なると、陳列・値引き・加工が追いつきません。その結果、「食べられるのに廃棄」が起こりやすくなります。
家庭の運用・計画・保存スキル
在庫の見える化が甘いと、予定外の買い物や誤った保存が重なり、使い切る前に劣化します。実は、開封日メモ・小分け冷凍・週1の食べきり日だけでも、流れを大きく変えられます。
私たちにできる食品ロス解決4ステップ

ステップ1:冷蔵庫の見える化
「早く食べる棚」を決め、開封日をテープで明記します。期限順に前列へ並べ、買い物前に棚の写真を撮るだけでも重複購入が減ります。小さな手順ですが、家庭のロス抑制には最短ルートになります。
棚を撮ってから買う――“在庫を見てから計画”は二重購入の特効薬。チェック方法は 『在庫チェックと食べ切りのやり方』 へ。
ステップ2:献立ベースの買い物
人数×回数×品目で必要量を先に計算し、まず七割だけ購入します。足りなければ当日追加で十分です。特売の衝動買いを避け、計画に沿うほど廃棄と出費の両方を確実に下げられます。
ステップ3:小分けと下ごしらえ冷凍
肉は薄く平らに、野菜は下ゆで後に小分け冷凍します。平置きで凍らせると解凍が速く、必要量だけ使えます。日付ラベルを徹底すると“冷凍庫の化石”化を防げ、使い切りまでの動線が短くなります。
“汚れを出さない=食べ残しを作らない”が分別より先の一手。背景の数字は 『日本のリサイクルの現状』 をチェック。
ステップ4:週一の食べきりデー
週に一度、家にある食材だけで献立を組む日を設けます。乾物や残り物の回転が上がり、在庫の可視化も進みます。続けるほど買い物の精度が上がり、結果的に月間の食品ロスと食費を同時に抑えられます。
企業やお店ができる解決方法
予約・前払いの拡大
予約比率と前払いを高めると製造数の精度が上がります。欠品リスクを抑えつつ在庫を縮め、閉店前の見切り依存を減らせます。計画と需要を同期させるほど、日次の廃棄量は安定的に低下します。
小サイズと量り売り
ハーフ・少量・量り売りの選択肢を常設します。世帯人数の小型化や多様な食シーンに合い、買いすぎを抑えます。満足度の向上と粗利の安定にもつながる、在庫起点の根本対策になります。
時間帯値引きとアプリ連動
閉店2時間前から段階的に価格を見直し、アプリや店内表示で即時告知します。値引きの可視化は前倒しの購買を促し、バックヤード行きを減らします。現場の運用負荷もルール化で軽くできます。
需要予測の高度化
天候・近隣イベント・POSの時系列を取り込み、当日製造を微調整します。経験則に頼る幅を縮め、過剰発注や欠品の揺れ幅を小さくします。予測の更新頻度を上げるほど、廃棄は確実に減ります。
持ち帰り可の明示と寄付連携
持ち帰り容器とルールを明示し、mottECO等の表示で選択肢を示します。フードバンクと常設連携にすると、突発的な余剰にも出口ができます。廃棄を例外でなく仕組みで減らす発想が要です。
予約・小サイズ・寄付の運用設計を現場に落とし込むなら、実装相談は 『法人専用窓口(社長直通)』 へ。
イベント別チェックリスト(最小3点)
ハロウィン
買いすぎ防止
必要数は「人数×回る回数×一人2〜3個」で算出し、まず七割だけ買います。足りなければ当日に追加します。最初から満杯にしないほど、余剰と廃棄の発生を抑えやすくなります。
小粒アソートの活用
個包装の小粒アソートを選ぶと、配りやすく余っても分けやすいです。家庭内の間食や学校への持参にも転用でき、在庫の出口が増えるため廃棄のリスクを小さくできます。
未開封品の寄付動線
未開封のお菓子は期限とアレルゲン表示を確認し、地域のフードバンクや子ども食堂へ回します。イベント当日に回収先を周知しておくと、家に戻ってからの廃棄を未然に防げます。
クリスマス
ケーキのサイズ調整
ホールは小さめやハーフを予約し、人数に合わせて過不足を避けます。余った分は小さく切って冷凍し、次の週末のデザートへ回す設計にすると、当日の廃棄を出しにくくなります。
料理は主役1+脇役2
品数を増やすほど残りやすくなります。テーブルは主役1品と脇役2品を上限にし、皿数ではなく満足度で設計します。盛り付けの余白も食べ切りに効きます。
見切りと告知のルール化
閉店前の段階値引きをあらかじめ掲示し、アプリや店内表示で周知します。買い場での可視化は、在庫の前倒し消化に直結します。現場が迷わない運用が廃棄を減らします。
包装・使い捨ても含めて“出さない設計”へ。生活まわりの環境影響は 『マイクロプラスチックと人体への影響(2025)』 に概説。
正月(おせち・会食)
重箱の量設計
目安は「家族人数×1.5食」です。三段を二段に見直すだけでも廃棄は減ります。来客の有無や外食予定を先に確定し、必要量を過不足なく決めてから発注します。
リメイク前提で仕込む
黒豆はパウンド、栗きんとんはモンブランに再利用するなど、翌日の変換先を先に決めて量を調整します。最初から“使い切るレシピ”を持つと無駄が減ります。
会食の「30・10運動」
最初30分と最後10分は席で食事に集中します。歓談や移動が多い場ほど食べ残しが出やすいため、時間の区切りを共有するだけで、残菜量を着実に抑えられます。
恵方巻
適量の基準
家庭では一人0.5本を目安にし、ハーフサイズを予約します。当日は切り分けて提供すると、食べ残しを抑えられます。量の基準を決めてから買うのがポイントです。
翌日の扱い
食べ切れない分は当日中が基本です。翌日は海鮮を外して加熱アレンジに切り替えます。衛生とおいしさの両立を優先し、無理して生食を続けないことが大切です。
店舗の当日調整
予約中心に組み、天候と販売進捗で当日製造を微調整します。時間帯別の見切りを明確にし、ハーフの比率を高めると、売れ残りの底上げを防げます。
バレンタイン
適量購入
配る人数×1〜2個分だけ購入し、買い置きはしません。贈る相手を先にリスト化すると、衝動買いが減ります。必要量に合わせるほど在庫の滞留が起きにくくなります。
保存の基本
直射日光と高温多湿を避け、密閉して涼しい場所で保管します。匂い移りを防ぐため、香りの強い食品と離して置きます。保管ルールの徹底が品質とロスの両方を守ります。
再利用のコツ
余ったチョコは砕いてパンケーキやグラノーラに再利用します。小袋に小分けして冷凍すると、必要な分だけ使えて便利です。おいしく使い切る出口を先に決めておきます。
近くのフードバンクはこちらから探せます。
・公益財団法人 日本フードバンク連盟
・フードバンク活動を推進する全国ネットワーク
・SECOND HARVEST(セカンドハーベスト・ジャパン)|日本初のフードバンク
よくある質問
- Q. 冷凍は万能ですか?
- A. 冷凍は強力ですが万能ではありません。品目ごとに最適期間があり、目安は1〜2か月です。日付ラベルを徹底し、先入れ先出しを守るだけで、冷凍庫の“化石化”は避けられます。
- Q. 賞味期限を過ぎたら全て不可ですか?
- A. 賞味期限は「おいしく食べられる目安」です。見た目・匂い・状態を確認し、判断が難しければ無理をしないでください。管理と記録が整うほど、期限に追われにくくなります。
- Q. まとめ買いが一番の節約ですか?
- A. 単価は下がりますが、消費計画がなければ廃棄リスクが上がります。冷蔵・冷凍の容量や賞味期限、1週間の献立に合わせ、まずは七割だけ買い、使い切れる分だけ追加するほうが総額は下がりやすいです。
- Q. フードドライブは期限切れや開封済みでも寄付できますか?
- A. 多くの団体は「未開封・賞味期限1か月以上・常温保存・表示あり」を条件にしています。期限切れ・開封済み・要冷蔵は不可が基本です。地域の受取基準と受付日程を事前に確認し、早めに回すのが安心です。
まとめ:今日から減らす、小さな一歩
食品ロスは家計・環境・社会の同時課題です。家庭の四点(見える化・献立買い・小分け冷凍・食べきり日)と、企業の三点(予約・小サイズ・値引き+予測)を回すだけでも、確実に減らせます。
参考リンク(公式)
消費者庁「めざせ!食品ロス・ゼロ」
https://www.no-foodloss.caa.go.jp/ 施策・資料・季節キャンペーンを横断的に確認できます。学校・地域で使える素材も公開されています。
農林水産省「食品ロス・食品リサイクル」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/ 事業者向けの制度や取組事例、季節商品の対策資料をまとめています。
環境省「mottECO」「30・10運動」
https://www.env.go.jp/press/press_04063.html 持ち帰り促進や宴会の食べきり運動など、実装しやすい資材を入手できます。
付録A:インパクト換算の前提
東京ドームの容積
目安として東京ドームを約1,240,000m³としています。体積の直感理解に用いる換算であり、食品の密度差により誤差が生じます。
2トン収集車の基準
ごみ収集車は満載2トンを基準としました。実運用では車種や積み方で差が出ますが、比較の物差しとして統一しています。
人の1年分(人年)の定義
一人あたりの年間食品ロス目安を約38kgとし、「人の1年分」の換算に用いています。家庭と事業の合計に対するイメージ化のための指標です。
体積換算の前提
簡便のため食品ロスの密度をおおむね1t/m³と仮定しています。品目により差が大きいため、概算としてご理解ください。
付録B:イベント別データの出典・注記
恵方巻の売れ残り推計
毎日新聞ソーシャルアクション 等の調査をもとに、売れ残り約256万本の推計を参照します。本文では1本250gで概算しています。
恵方巻の公的対策(消費者庁)
恵方巻 特設ページ では、予約活用や製造調整などの取組が紹介されています。店舗・家庭双方に有効です。
クリスマス季節商品のロス
消費者庁コラム と 予約販売の推奨 を根拠として記載しています。全国確定トン数は未整備です。
ハロウィンの回収事例
フードドライブ報告 など、地域の回収実績を参考に記載します。規模が地域で異なるため全国推計は控えています。